歯列矯正の知識

歯が動く仕組み

人間の歯は生涯動き続ける

歯は硬い骨の中に生えていますので、一見、じっとして動いているように見えませんが、ヒトの歯は生涯動き続けています。硬い骨の中で乳歯が出来あがり、生後半年くらいには、乳児の歯が初めて生えてきます。そして、大人の歯は六歳頃から生え始め、12~13歳頃には永久歯が生えそろいます。そうなった後、さらに思春期以降まで、上顎骨や下顎骨の成長が続き、継続的に歯の位置は変化して行きます。そして、成人に達し、生涯が閉じるまで、歯は少しずつ伸び、少しずつ前へ前へと動いて行きます。

人が毎日、絶えず呼吸をしたり、食べ物を噛んだり、飲み込んだり、話しをしたりする生理的な口の運動と、成長や加齢による変化で、歯並びと噛み合わせの変化が起こり、このようにして、若い時には良い噛み合わせであったのに、徐々に受け口になってきて、そのことに年を重ねてから気づいたりもします。

歯は硬い骨の中に生えていますが、その根の周りに軟らかい歯根膜という組織があり、歯の移動に関係します。ここには、骨やセメント質を生成する細胞に分化できる細胞が含まれていますが、近年、歯根膜細胞の中に骨、軟骨、脂肪組織そして神経組織などに分化する能力を持つ幹細胞が存在することがわかりました。現在は、この歯根膜幹細胞を用いて、歯や歯の周りの組織を再生する研究が進んでいます。

矯正歯科治療で歯が動く仕組みについて

歯はとても硬く、あごの骨にしっかり埋まっているのに、どうして矯正装置をつけると歯が動くのでしょうか?歯と歯槽骨の間には歯根膜というクッションのような組織があります。歯に矯正力が加わると歯根に圧迫された側の骨がなくなり(吸収)、反対側のすき間は新しい骨が作られます(再生)。 吸収と再生を繰り返し、結果として歯が移動していくのが歯列矯正のしくみです。

歯ぐきの中には歯を支えるための骨(歯槽骨)があり、歯槽骨と歯の根の間には歯根膜という弾力のある薄い膜があります。歯根膜は、歯にかかる衝撃をやわらげるクッションのような役割を持っています。

歯を引っ張って動かし始めると、その力が歯根膜に伝わります。歯が動く方向側の歯根膜は縮み、反対側は引っ張られて伸びます。縮んだ歯根膜は元の厚さに戻ろうとして、骨を溶かす細胞をつくり、動く方向側の骨を溶かします〈吸収)。一方、伸びた歯根膜は元の厚戻ろうとして、骨を作る細胞をつくり、反対側に骨を新しく作ります(再生)。

骨を溶かす細胞と骨を作る細胞のはたらきで、歯根膜がもとの厚さにもどります。吸収と再生が繰り返されることで歯が少しずつ動いていきます。

装置で歯に少しずつ継続的な力を加えると、 徐々に歯は動きます。歯が動くスピードは1ヶ月に0.5~1ミリ程度です。やみくもに強い力を加えたからといって、早く動くというわけではありません。力をかけすぎれば、場合によっては、歯根や周囲の骨に大きなダメージを与えてしまします。歯や周囲の組織に負担をかけずに、体が持つ自然のペースで歯を動かしていきます。